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リンパ浮腫の治療について:

 実はリンパ浮腫がどういった機序で起こっているのかはまだはっきりと解明されていません.しかしながら,さまざまな治療法が考案され,現在に至っております.当科では治療実績のある保存的治療をベースに,最新の外科的治療を組み合わせたコンビネーション治療を行っております.

 大事なことは,むくみが生じたら直ちに治療を開始することです.放置していると徐々にリンパ管内圧が上昇してボリュームが増えてゆき,皮膚と脂肪が炎症を繰り返して硬くなり,ついにはリンパ管も詰まって閉塞してしまいます.このような状態になると元の状態には戻りませんので,早期の治療開始が非常に重要なのです.

◆保存的治療について

 基本的には    ●スキンケア(キズの予防や保湿など)

          ●医療リンパドレナージ(もんだり押したりしない、さするようなマッサージ)

          ●圧迫療法(ストッキングや包帯でむくみの発生を抑える)

          ●圧迫療法下での運動療法

 を行うことが原則とされています.さらに私たちは,

                              ●減量(ダイエット) も非常に重要と考えています.

 私たちはこれらの基本的治療法がスムーズに継続できるように,補助具の使用や簡易圧迫の工夫を行い,患者さんを囲む治療協力者を含めた環境作りに力を入れています.

当科外来では,

医療リンパドレナージセラピストの資格を持った外来看護師が,ケアについての指導やリンパドレナージを行っています.

◆外科的治療について

 患者さんの状態に合わせて,当科ではリンパ浮腫の外科的治療(手術)も積極的に行っております.大きく分けると2つの方法があります.ひとつはリンパの流れを改善する方法(リンパ管静脈吻合,血管付きリンパ管移植),もう一つは増えてしまったボリュームを減少させる方法です(脂肪吸引術,チャールズ法).いずれも手術方法もリンパ浮腫が完治するものではありませんが,適応を正しく選んで行うことでより良い状態に持っていくことが出来ます.患者さんの状態によっては,これらを組み合わせて行うことがあります.

 

 

①リンパの流れを改善する方法・・・おもに早期のリンパ浮腫の方に行っております。

 

  • リンパ管静脈吻合術(LVA:Lymphaticovenular anastomosis)

 がんの術後などでリンパ節を切除されたり, 放射線治療を受けた後でむくんでいるが, 手足に正常なリンパ管が残っている方が適応となります. これらのリンパ管は下流で流れが悪くなっており, 川から水があふれた洪水のようになっています. このあふれたリンパ液を静脈につないで, 心臓に戻すことでリンパの流れを改善しようというのが狙いで, 臨床例では1978年にDeguniらが報告しています.

  この手術の効果は, つないだリンパ管が良く流れているものかどうか、受け皿となる静脈の圧とのバランスはどうか、そして何よりもきれいにリンパ管と静脈がつなげているかどうかにかかっています. よい手術を行うために、当科では術前にICG蛍光リンパ管造影によるリンパ管のマッピングを行い、できる限り良いリンパ管を見つけておきます. 同時に, 近赤外線血管可視化装置(ベインビュアー)を用いて最適な静脈もマッピングしておきます. リンパ管と静脈が近接した部分でLVAを行うことで, 皮膚の切開は最小限となります. 通常リンパ管は直径が0.2~0.8mmと細く肉眼では吻合ができないため, 手術用の顕微鏡で10~20倍の拡大視野で行います. 吻合に用いる手術器具や針糸なども専用の繊細なものを使用するため, スーパーマイクロサージャリーと呼ばれる手技が必須となります. ここまで見るとなんだかものすごい手術に聞こえますが, 実際には小さな傷で皮膚と脂肪組織のみを操作するため非常に低侵襲で, 手術自体は局所麻酔で行っております. このような吻合を1肢につき3~6カ所行い, 手術時間は3~5時間程度です. 術後は軽く圧迫を行い, 翌日から吻合部の血栓予防にヘパリンを1週間投与しております. 基本的には術後1週間の入院ですが, 状況により短期入院あるいは入院なしの外来手術で行う場合もあります.

  この手術はボリュームを直接減じるものではありませんが, リンパの流れを改善することで以前よりもむくみにくくなったり, むくんでも戻りが早くなったり, あるいは炎症を繰り返していたのが軽減したりします. また, LVAはリンパ浮腫の発症早期に行う方が効果が高いという結果が出ており, 中には保存的治療が不要となった例もあります. 一方で, リンパ浮腫の病歴が長く脂肪沈着が著明な例や皮膚が線維化した例ではLVAを行っても治療の効果は限定的で, 後述する減量術を併用する必要があります. 

顕微鏡下に吻合したリンパ管と静脈.

通常リンパ管の直径は0.2 〜0.8mm大.

術中ICG蛍光リンパ管造影: 白く光ったリンパ液が吻合部を通じて静脈に流入しています.

  • 血管付きリンパ節移植術(VLNT: vascularized Lymph node transplantation)

 リンパ浮腫の手足に健康なリンパ節を移植して,リンパの流れを改善しようとする治療で,臨床例では2005年にフランスのBeckerが初めて報告しています.リンパ節はリンパ球やマクロファージを含み,リンパ液を濾過して細菌やウイルス,がん細胞などを排除して感染や癌の転移を防いでいます.濾過の過程でリンパ節はリンパ液のポンプとして領域のリンパ液を吸収し,除水・濃縮してゆくと考えられており,リンパ節を浮腫のある手足に移植することで水分の吸収を良くしてむくみを改善しようとするものです.移植の際にはリンパ節を生きた状態で移植するため,またリンパ節が吸収した水分の排出路が必要なため,リンパ節を栄養する動静脈と移植先との血管吻合が必要です.移植するリンパ節は,頚部,側胸部,鼡径部などがありますが,不適切に採取するとそこに新たなリンパ浮腫を発症させる可能性があるため,解剖の熟知と慎重な手術操作が必要となります,手術は全身麻酔で5~6時間,術後入院は7~10日間ほどです.

 VLNTは始まってからまだ月日が浅く,手術効果や合併症などの検討が必要なため臨床研究で行っております.手術前後にICGリンパ管造影,CTリンパ管造影,リンパシンチグラフィなどリンパに関する検査を細かく行い,詳しい評価を行って今後の治療指針に役立ててゆく予定です.適応となる患者さんは,LVAと同様に早期のリンパ浮腫の方が成績が良く,線維化が進んだ進行例では効果が少ないとされています.

②ボリュームを減少させる方法・・・進行例のリンパ浮腫の方に行っております.

しっかりと圧迫療法が出来ていても,長年にわたりリンパのうっ滞が続いていると次第に脂肪細胞の増加とともに肥大化も起こってくることがわかっています.体重過多の方はダイエットにより減量することは浮腫の改善にも非常に効果的です.適正体重であり, 圧迫療法もきちんとできており(むくみのある部分を押しても凹みが残らない), それでもなおリンパ浮腫のある手足が健側よりも大きい場合はボリュームを減少させる方法の適応となります.

 

  • 脂肪吸引術

 美容外科で行われている手術手技である脂肪吸引術を取り入れたもので,リンパ浮腫に対しては1997年にBrorsonらが報告しています.小切開から直径3~4mmの吸引カニューラを用いて皮下脂肪を吸引し,目的とする部位のボリュームを減少できるのが特徴です.脂肪吸引にもさまざまな方法がありますが,当院ではシンプルな陰圧吸引で行っております.全身麻酔に加え,ツメッセントという希釈した局所麻酔を併用して術中の出血と術後の痛みを軽減するようにしています.

 ボリュームの減少効果は非常に高く,足が軽くなって動きやすくなったり,既製品の服が着られるようになったり,また繰り返す蜂窩織炎の頻度が下がったりとQOL(生活の質)の向上に役立つ手技であると考えられています.また術後にきちんと圧迫を継続していれば10年以上ボリュームが維持できたとの報告もあります.

 しかし,その小さな傷跡とは裏腹に皮下脂肪を広範囲に操作しますので手術の侵襲度は高く,出血や術後の痛み,しびれ,深部静脈血栓症などの合併症も比較的高いとされています.とくにリンパ浮腫の手足に対する脂肪吸引術は,美容外科で一般的に行われている脂肪吸引術と比べて脂肪が硬く吸引しにくかったり,“術後の腫れ”が長引いたりするため周術期にはリンパ浮腫治療に特化したチームによる特別なケアが必要になります.また,脂肪吸引後にはリンパの流れが悪くなる可能性もあるため,手術の適応は慎重に決める必要があります.

 

  • チャールズ法

 リンパ浮腫のむくんだ手足の皮膚・脂肪を筋肉を残してはぎ取り,はぎ取った組織からさらに皮膚だけを薄く削ぎ取って筋肉の上に貼りつけて戻す(植皮)方法です.1912年にCharlesによって報告され,国内でもステージⅢの象皮症の症例に行われていました.ボリュームを減らす効果は非常に高いものの,貼りつけた皮膚は拘縮するため感触が悪く,また触った感覚(知覚)もかなり落ちてしまうため近年ではあまり行われておりません.

 

 

 

 

③ ハイブリッド手術

上記2つの手術方法 (①リンパの流れを改善する方法と, ②ボリュームを減少させる方法) は患者さんの状態によっては組み合わせて行う場合もあります. たとえばステージⅡ晩期で脂肪沈着が著明でありながらも良好なリンパ管が残っている場合には, 脂肪吸引術とLVAを同時に行うことがあります. 脂肪吸引だけでは末梢のリンパ流が悪くなって浮腫が悪化することがあるため, これを予防するために脂肪吸引部分よりも末梢でLVAを行います. このハイブリッド手術は一度に行うことができ, またLVAは体への侵襲が少ないため, 脂肪吸引術を検討されている方で機能的なリンパ管がまた残っている患者さんにはおすすめしております.

LVA: リンパ管静脈吻合術

 

VLNT: 血管付きリンパ節移植術

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